北多摩西部医療圏の基幹病院として消化器悪性疾患、乳腺疾患と腹部救急疾患、体表疾患などの外科治療を行っています。2020年度現在、外科専攻医2名を含む10名の常勤医師により、手術治療、抗癌化学療法および腹部急性疾患手術を中心に診療しております。
当科は食道から肛門までの消化管および肝臓、胆道、膵臓などの実質臓器腫瘍、乳癌をはじめとする乳腺疾患、その他血液、代謝疾患に伴う消化器手術なども担当しております。"5大がん"のうち肺がんを除く4臓器領域がんが当科治療の対象になります。各臓器の癌治療ガイドラインが既刊されておりますが、当科はガイドラインを遵守して、一般の人にも解かりやすい文章で治療提示して迅速に手術療法、薬物療法を展開しております。また、必要に応じて抗がん剤と放射線照射を組み合わせた化学放射線治療や、手術前抗がん剤治療(術前化学療法)を実施して、肛門温存を志向した"QOL(=生活の質)の良い直腸癌手術"や、根治切除の切除境界領域上にあった食道癌、胃癌、膵臓癌などの治癒切除を可能にして"生存に寄与するがんの手術"を常に模索しております。その他、良性疾患である胆道結石症、鼠径ヘルニア、腹壁ヘルニアなどや、腹部急性疾患である虫垂炎、腹膜炎などの手術も当科の担当となっております。
すべての手術は日本外科学会指導医・専門医、日本消化器外科学会指導医・専門医、日本乳癌学会専門医を含む各臓器の専門医が執刀または責任医師として実施しております。また薬物療法、放射線療法は上記指導医や院内の他部門の医師達と協議の上決定されます。
当院ではご高齢の方や合併症(余病)をお持ちの患者さんが多いのですが、安全性を考慮しつつ癌治療ガイドラインが規定する範疇で、体に負担の少ない鏡視下手術(腹腔鏡手術)を積極的に行っております。食道癌、胃癌、大腸癌はもとより血液疾患における治療対象の脾臓手術も鏡視下手術の対象です。その他、他領域の常勤専門医(泌尿器科、形成外科など)との協力体制も整っており、乳房同時再建手術や腹壁再建手術、進行癌の他臓器合併切除再建術なども多数実施しております。年々治療対象の患者さんの高齢化も進んでおりますが、年齢で手術の制限は設けず、同様に薬物療法でも一概に高齢を理由に排除せず、また中等症以上の余病をお持ちの方でも可能な限り積極的な治療を行っており、地域がん診療連携拠点病院として常に地域完結型医療の提供を目指しています。
最後に特に乳がん診療に関して追加説明します。当院では日本看護協会が養成認定した「乳がん看護認定看護師」1名を配置し、治療開始前後には医師からの説明だけでなく、認定看護師のみで患者さんや御家族と面談できるよう時間を設定するようにして、治療理解度の把握や心情の理解に努め適切な治療を行えるよう準備しております。また資格を有した看護師2名による「リンパ浮腫外来」も行っておりますのでご相談頂けたら必要に応じ適宜対応致します。
乳癌患者数は年々増加しており特に20~40代と若い世代で増加していることが特徴です。例年当院で治療される方は70才代の方が最も多い年代ですが、ここ数年は40才代以下の若年者の方々の割合も20%と増加してきています。長期生存が可能な"がん"であり"生活の質"の向上を目指した治療選択が要求されます。当院の傾向としては手術対応した約半数がStage0~Ⅰの早期癌です。早期癌でも乳房全切除が必要な方には、形成外科医師と共同のもと切除と同日に再建を行う同時乳房再建術をお勧めし施行しています。一方、多臓器に転移したStageⅢB以上の乳癌や再発乳癌も当科にて治療対応しております。2018年に改訂された乳癌治療ガイドラインを適切に運用して薬物療法を展開しており、治療開始と同時の緩和治療、カウンセリング介入を心がけています。
2018年に改訂された胃癌治療ガイドラインにより、全国的に従来の治療方針が大幅に転換されました。大きなところでは、手術では胃全摘術における隣接臓器である脾臓合併切除の位置付けが変更され、StageⅢA-ⅢCにおける術後化学療法(抗癌剤治療)の至適治療が開示され、切除不能進行・再発胃癌に対する3次化学療法までの抗癌剤が規定されました。その他多数ある変更点を詳細に顧みて適切に治療法を選択しております。
当院の特徴として、残念ながら従来から多い腹膜転移を強く疑われる進行癌に対しては、審査腹腔鏡(腹水細胞診)手術を経た後に化学療法を行い、治癒切除術を目指しております。これは腹水細胞診が陽性でも、腹膜転移が軽微である進行癌では、化学療法後の従来型の大きな手術で治癒に至る症例もあるからです。当院で2010年-2014年に治療したStageⅣ胃癌29例中では3例が無再発生存で5年生存を得ております。
大腸癌は肺癌に次いで罹患率の高い癌の一つになっており、全病期を合わせた生存率は5年生存72.1%とされ長期生存の望める病気です。改訂された2019年大腸癌治療ガイドライインでも新規の抗癌剤が登場し治療選択が更に広がりました。
直腸癌に対しては肛門温存の戦略として、術前放射線化学療法(放射線28回+TS-1内服28日)施行後の腹腔鏡手術なども行っております。また肝臓に転移したStageⅣ大腸癌であっても当院では化学療法と手術を適切に組み合わせGradeAの肝転移(大腸癌取り扱い規約2018年度版P16記載)症例に対しては積極的に手術を行っております。一方、再発症例では推奨される全ての薬物療法を行うことを心がけています。
その他、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患に対しても必要に応じ手術治療しております。
膵癌に対し積極的な化学療法を組み合わせながら根治切除を目指して対応しています。消化器内科、放射線科画像診断部門、外科の討議で治療方針を決定します。切除可能かどうかを判断し、切除可能例、切除境界症例、切除不能例の診断分類をします。切除境界症例、切除不能例は化学療法を先行し病勢コントロールを計ります。従来、切除可能症例にたいし外科的根治切除を優先していました。しかし現在は原則TS1とゲムシタビンの化学療法を実施し病勢コントロールを計り根治切除を提供しています。 根治切除術は膵頭十二指腸切除術、膵尾側切除術、膵全摘術を行います。膵癌は重要血管に浸潤することが少なくないため血管合併切除術を積極的に行います。癌の血管浸潤の程度により門脈合併切除再建術、腹腔動脈幹切除術,肝動脈切除再建術を追加します。肝動脈再建術は心臓血管外科医の協力のもとに行っています。切除境界例および局所進行した切除不能例に対してはゲムシタビン、アブラキサンの多剤併用化学療法を施行し、病勢コントロールをはかります。切除可能な画像への奏功を診断できたら根治切除を行います。根治切除後は外来においてTS1内服による術後化学療法を実施し、再発予防目的の術後補助療法を行っています。当科の2020年までの膵癌切除例の5年生存率は20.7%でした。術後補助療法を施行した切除可能症例の5年生存率は46%でした。切除境界症例の5年存率は20%、切除不能例が切除可能となった症例の5年生存率は30%でした。
胆道癌はその部位によって十二指腸乳頭部癌、遠位胆管癌、胆嚢癌、近位胆管癌に分類されます。多くの症例が閉塞性黄疸症状を示すため消化器科において減黄治療を受けて頂いています。胆道癌に対して消化器内科、放射線科画像診断部、外科の討議により治療方針を決定します。切除可能と診断したら積極的に切除を行います。十二指腸乳頭部癌、遠位胆管癌に対しては膵頭十二指腸切除術を行います。胆嚢癌に対しては肝切除を加え、癌の浸潤形式によっては膵頭部あるいは十二指腸を合併切除して根治切除を目指しています。近位胆管癌に対しては拡大肝葉切除術を行います。減黄治療の後、肝の耐術能(手術に耐えられる能力)を評価します。肝葉切除の術後の肝不全発症が不安な場合、切除予定肝の門脈塞栓治療を行い残肝予定部の肥大を計り肝不全の危険を軽減し根治切除を提供しています。癌局所進行が強く切除不能の診断をした症例にはゲムシタビン、シスプラチン多剤併用学療法を行います。病勢コントロールがついて切除可能と診断できたら積極的に根治切除を計画します。癌腫の浸潤が門脈、肝動脈に及ぶことが少なくないので門脈切除再建術、肝動脈切除再建術を加えて根治切除を行います。2020年までに当科で手術した胆道癌の5年生存率は 十二指腸乳頭部癌が62.6%,遠位胆管癌が36.1%、進行胆嚢癌が55%、近位胆管癌が19.9%でした。
年 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | |
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総手術件数 | 544 | 533 | 585 | 523 | 465 | |
悪性腫瘍 | 食道癌 | 2 | 6 | 6 | 8 | 6 |
胃癌 | 53 | 40 | 44 | 33 | 47 | |
大腸癌 | 107 | 99 | 101 | 92 | 101 | |
肝胆膵癌 | 41 | 33 | 51 | 42 | 39 | |
乳癌 | 67 | 55 | 61 | 69 | 57 | |
良性疾患 その他 |
274 | 300 | 322 | 279 | 215 |
年 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 |
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腹腔鏡手術総数 | 172 | 208 | 205 | 169 | 192 |
腹腔鏡下 胆嚢摘出術 |
44 | 66 | 73 | 64 | 52 |
腹腔鏡下 胃切除術 |
19 | 16 | 17 | 8 | 20 |
腹腔鏡下 大腸除術 |
58 | 50 | 67 | 54 | 78 |
腹腔鏡下 脾臓摘出術 |
3 | 3 | 1 | 1 | 0 |
腹腔鏡下 虫垂摘出術 |
15 | 22 | 9 | 13 | 11 |
腹腔鏡下 ヘルニア手術 |
33 | 40 | 23 | 11 | 11 |
その他 | 2 | 11 | 15 | 18 | 20 |
当科では、国立病院機構の多施設共同研究をはじめとする共同臨床研究や単施設研究を行っております。
病院医療の崩壊や医師の偏在が叫ばれ、多くの学会や団体が医療再建に向けて新たな提言を行っています。こうした中で、患者さん目線の良質な医療を提供するために、臨床に関連する多くの学会が連携し、わが国の医療の現状を把握するために立ち上げられたのが『一般社団法人National Clinical Database』です。この法人における事業を通じて、治療成績向上や外科関連の専門医の適正配置の検討が可能となります。
外科系手術データベース事業は、日本全国で行われた手術・治療情報を匿名化のうえ登録し、集計、分析することで医療の質の向上に役立て、患者さまに最善の医療を提供することを目指すプロジェクトです。
当科でもNCDの趣旨に賛同し、この事業に参加しておりますので、何卒趣旨をご理解の上、ご協力賜りますようよろしくお願い申し上げます。
NCD事務局(http://www.ncd.or.jp/)
患者さまの診療で用いた検査データ、保存検体等を症例報告、臨床研究等に使用させて頂くことがあります。この場合は、患者さまを特定できないような形で使用させて頂きます。データ使用により、お名前やご住所などの個人情報が外部に流出することは一切ございません。
なお、このようなご利用を希望されない場合には、主治医にお伝えください。
ご理解、ご協力の程、よろしくお願いいたします。