食道、胃、大腸を中心とした消化管から肝臓、胆道、膵臓まで幅広い消化器疾患、乳癌をはじめとした乳腺疾患、その他血液、代謝疾患に伴う消化器手術、腹部救急疾患、体表疾患などに対して、手術治療、抗癌化学療法および腹部急性疾患手術を中心に診療しております。
癌に関しまして、癌治療ガイドラインを遵守し、迅速に手術療法、薬物療法を展開しております。また、必要に応じて抗がん剤と放射線照射を組み合わせた化学放射線治療や、手術前抗がん剤治療(術前化学療法)を実施して、肛門温存の直腸癌手術や、術前化学療法と合わせて、切除困難な食道癌、胃癌、膵臓癌などの切除を目指しております。その他、良性疾患である胆石症、鼠径ヘルニア、腹壁ヘルニア、腸閉塞などや、腹部急性疾患である虫垂炎、腹膜炎、消化管穿孔などの手術も対応しております。
ご高齢の方や合併症(余病)をお持ちの患者さんでも、年齢や基礎疾患での制限は設けず安全性を考慮しつつ治療を行い、地域がん診療連携拠点病院として常に地域完結型医療の提供を目指しています。また、胆石、ヘルニアなどの良性疾患から、食道癌、胃癌、大腸癌などの悪性疾患、緊急手術にも積極的に腹腔鏡手術を施行し、体への負担の少ない治療を行っております。
すべての手術は日本外科学会指導医・専門医、日本消化器外科学会指導医・専門医、日本乳癌学会専門医を含む各臓器の専門医が執刀または責任医師として実施しております。
乳癌患者数は年々増加しており、40才代以下の若年者の方々の割合も20%と増加してきていますが、手術対応した約半数がStage0~Ⅰの早期癌です。早期癌でも乳房全切除が必要な方には、形成外科医師と共同のもと切除と同日に再建を行う同時乳房再建術をお勧めし施行しています。多臓器に転移したStageⅢB以上の乳癌や再発乳癌も当科にて治療対応しております。2022年に改訂された乳癌治療ガイドラインを適切に運用して診療にあたっています。
食道癌、食道胃接合部癌(Ⅰ型)に対して、術前に化学療法(抗がん剤治療)を行い、縮小効果を得てから手術を行うことが望ましい、ということが「食道癌診療ガイドライン 2022年度版」でも記載されています。当院においてはStageⅢもしくはⅣ症例が多く、周辺臓器の心臓、大動脈、肺、気管支などに浸潤している癌腫に対しては、化学放射線療法(抗がん剤と放射線の同時併用療法)を行い、開胸操作下に救済手術を行うこともあります。多くの症例では術前化学療法の後、胸腔鏡で食道を切除し、腹腔鏡で再建臓器を作成し、左頸部において食道再建する手術を基本術式として実施しています。また食道接合部癌(Ⅱ型、Ⅲ型)に対しては、癌腫の縮小度により腹腔鏡で切除再建する場合があります。当院治療症例は過去、極めて進んだStageの進行癌が多かった関係上、術前の抗がん剤治療、術後の薬物療法(免疫チェックポイント阻害薬投与)は全て手術治療を行う当科が担当しております。更に、手術対象ではないⅣ期の食道癌症例に対しては通過障害を解除するだけの内視鏡下ステント挿入治療、2剤の免疫チェックポイント阻害薬を併用する薬物療法なども当科が担当しております。
全国的に見て、2000年初頭にPylori菌の除菌療法が確立され普及したおかげで、近年胃癌は減少傾向にあります。一方、除菌に成功しなかった年代の現70歳代、80歳代の後期高齢者の胃癌は、進行胃癌となって発見されることも多くなっております。高齢者に多い上部胃癌では隣接臓器(膵臓、脾臓、横行結腸)を合併しなくてはならないことも稀ながらあります。当院では、多くの切除Borderline症例に対して術前化学療法を行い根治切除に繋げております。免疫チェックポイント阻害薬(Nivolumab)が登場し、化学療法+Nivolumab療法が保険治療で承認された2022年以降、切除不可能症例が切除可能となることも稀ではなくなって来ております。このような高齢者の難治癌に対しても、年齢制限を設けることなく薬物治療、手術治療を展開しております。一方、心臓や呼吸機能に障害がなく、上腹部開腹既往がない患者さんに対しては、通常腹腔鏡による切除再建術を施行しています。
大腸癌は現在、罹患率一位の癌となっておりますが、5年生存率は71.4%と長期生存の望める病気です。治療は、外科治療だけではなく、抗癌剤や放射線治療も併用しながら手術での根治切除を目指します。また、腹腔鏡手術や肛門温存を行う事で、術後の高いQOL(=生活の質)の維持を心がけております。その他、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患、痔核、腸閉塞などの良性疾患に対しても必要に応じ手術治療してまいります。
膵癌に対し積極的な化学療法を組み合わせながら根治切除を目指して対応しています。まずは切除可能かどうかを判断し、切除可能例、切除境界症例、切除不能例の診断分類をします。切除境界症例、切除不能例は化学療法を先行し病勢コントロールを計ります。切除可能症例にたいしてもTS1とゲムシタビンの化学療法を行い病勢コントロールを計り根治切除を提供しています。 根治切除術は、膵頭十二指腸切除術、膵尾側切除術、膵全摘術を行っています。膵癌は重要血管に浸潤することが少なくないため血管合併切除術を積極的に行います。癌の血管浸潤の程度により門脈合併切除再建術、腹腔動脈幹切除術を追加します。大血管浸潤を認めない癌腫には腹腔鏡手術の対応をお薦めする場合があります。切除境界例および局所進行した切除不能例に対して多剤併用化学療法を施行し、病勢コントロールを計ります。切除可能な画像への奏功を診断できたら根治切除を行います。根治切除後は外来においてTS1内服による、再発予防目的の補助療法を行います。2021年までの当科の膵癌切除例の5年生存率は20.7%でした。術後補助療法を施行した切除可能症例の5年生存率は46%でした。切除境界症例の5年存率は20%、切除不能例が切除可能となった症例の5年生存率は30%でした。
胆道癌はその部位によって十二指腸乳頭部癌、遠位胆管癌、胆嚢癌、近位胆管癌に分類されます。多くの症例が閉塞性黄疸症状を示すため減黄治療をします。癌腫が切除可能と診断したら積極的に切除を行います。十二指腸乳頭部癌、遠位胆管癌に対しては膵頭十二指腸切除術を行います。胆嚢癌に対しては肝床部を中心にした肝切除を加え、癌の浸潤形式によっては膵頭部あるいは十二指腸を合併切除して根治切除を目指しています。肝門部寄りに癌腫のある近位胆管癌に対しては拡大肝葉切除術を行います。減黄治療の後、肝臓の耐術能を評価します。肝葉切除が不安な場合、切除予定肝の門脈塞栓治療を行い残肝予定部の肥大を計り肝不全の危険を軽減し根治切除を提供しています。癌局所進行が強く切除不能の診断をした症例にはゲムシタビン、シスプラチン多剤併用学療法を行います。病勢コントロールがついて切除可能と診断できたら積極的に根治切除を計画します。癌腫の浸潤が門脈、肝動脈に及ぶことが少なくないので門脈切除再建術、肝動脈切除再建術を行い根治切除を行います。2022年以降は 手術後の再発予防のためTS1内服治療を16週間行います。2021年までに当科で手術した5年生存率は 十二指腸乳頭部癌が62.6%,遠位胆管癌が36.1%、進行胆嚢癌が55%、近位胆管癌が19.9%でした。
年 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | |
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総手術件数 | 585 | 523 | 465 | 523 | 605 | |
悪性腫瘍 | 食道 | 6 | 8 | 6 | 5 | 2(100%) |
胃 | 44 | 33 | 47 | 35 | 54(25%) | |
大腸 | 101 | 92 | 101 | 130 | 126(60%) | |
肝胆膵 | 51 | 42 | 39 | 51 | 61(29%) | |
乳腺 | 61 | 69 | 57 | 53 | 58 | |
良性疾患 その他 |
胆石症・胆嚢炎 | 96 | 76 | 66 | 77 | 65(83%) |
虫垂炎 | 23 | 19 | 28 | 22 | 23(78%) | |
ヘルニア | 112 | 84 | 59 | 60 | 98(45%) | |
イレウス | 8 | 10 | 11 | 22 | 18(33%) | |
その他 | 83 | 90 | 51 | 68 | 96(4%) |
※( )は鏡視下手術の割合
当科では、国立病院機構の多施設共同研究をはじめとする共同臨床研究や単施設研究を行っております。
病院医療の崩壊や医師の偏在が叫ばれ、多くの学会や団体が医療再建に向けて新たな提言を行っています。こうした中で、患者さん目線の良質な医療を提供するために、臨床に関連する多くの学会が連携し、わが国の医療の現状を把握するために立ち上げられたのが『一般社団法人National Clinical Database』です。この法人における事業を通じて、治療成績向上や外科関連の専門医の適正配置の検討が可能となります。
外科系手術データベース事業は、日本全国で行われた手術・治療情報を匿名化のうえ登録し、集計、分析することで医療の質の向上に役立て、患者さまに最善の医療を提供することを目指すプロジェクトです。
当科でもNCDの趣旨に賛同し、この事業に参加しておりますので、何卒趣旨をご理解の上、ご協力賜りますようよろしくお願い申し上げます。
NCD事務局(http://www.ncd.or.jp/)
患者さまの診療で用いた検査データ、保存検体等を症例報告、臨床研究等に使用させて頂くことがあります。この場合は、患者さまを特定できないような形で使用させて頂きます。データ使用により、お名前やご住所などの個人情報が外部に流出することは一切ございません。
なお、このようなご利用を希望されない場合には、主治医にお伝えください。
ご理解、ご協力の程、よろしくお願いいたします。