(2018/03/13 up)
春を告げるあたたかな風とともにスギ花粉が飛散する季節となりました。今年は昨年よりも飛散量が多く、つらい目のかゆみや充血、涙、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、のどや皮膚のかゆみなどの症状に悩まされている方も多いかと思います。
スギを初めとする風によって花粉を運ぶ植物(風媒花)は虫などが花粉を運ぶ植物(虫媒花)よりも多量の花粉をつくり、花粉が遠くまで運ばれるので花粉症の原因になりやすいと考えられています。風媒花には、樹木ではスギやヒノキの他にシラカンバ、ハンノキ、ケヤキ、コナラ、ブナなどがあり、樹木以外ではカモガヤやハルガヤなどのイネ科の植物、ブタクサ、ヨモギなどキク科の植物があげられます。日本ではこれまでに60種類以上が花粉症の原因として報告されています。主な花粉の飛散時期つまり症状が出現する時期はスギ、ヒノキなどの樹木では春が中心ですが、イネ科の場合は初夏に、キク科は真夏から秋口です。
日本で始めてブタクサ花粉症が報告されたのが1961年、スギ花粉症は1963年、カモガヤが1964年、ヨモギが1969年と1960年代にはほとんどの花粉症が報告されています。スギ花粉は1976年、79年82年に大飛散があり、このころから患者が急増し、社会問題となってきました。スギは植栽後10数年経つと雄花が出来はじめ、本格的に花粉が生産されるのは、早くて25年、通常は30年と言われています。戦後、スギの植栽を進めてきたことにより、花粉を生産するスギが増加傾向にあると推測されます。また、スギ林の少ない都市部でスギ花粉症が増加している要因の一つとして、開発により花粉を吸着する森林や土壌が減り、人工的な建造物に飛散して長期に残存した花粉が風などで再飛散することにより繰り返し暴露がおこっているのではないかと考えられています。
スギ花粉の生産量は、花粉が形成される前年夏の気象条件と密接な関係があり、日射量が多く、降水量が少ないほど、翌春の花粉生産量が多くなる傾向があることがわかっています。飛散量が多いほど症状が出やすいので、年によって症状にも変動があります。
現在、日本の花粉症の方の約70%はスギ花粉が原因です。スギの人工林の面積は全国の森林の18%、国土の12%を占めていますが、地域差があり、九州・東北・四国に多く、北海道は少なく、沖縄にはスギがありません。関東地方は全国的には決して人工林面積の多い地域ではありませんが、森林面積に占める人工林の割合が高くなっています。スギ花粉の抑制対策として、無花粉スギや少花粉スギ品種等の開発、スギ人工林の広葉樹林や針広混交林への誘導による多様な森林づくりなどが進められていますが、スギ林は、木材資源であると同時に、国土の保全や地球温暖化の防止、水源のかん養等の多様な公益的機能を有しているため、一度に伐採して植林を行うことは難しく、計画に基づき順次伐採・森林整備を行い、公益的機能を維持しつつ花粉の少ない森林への転換を進めているとのことで、どうやらまだしばらくはスギ花粉に悩まされることになりそうです。
ところで私たちはなぜ花粉症になるのでしょうか。人には細菌やウイルスから身体を守る免疫機構という仕組みがあります。異物が体内に侵入するとそれを排除しようとする仕組みですが、その免疫機構が勘違いを起こして暴走することにより花粉症やぜんそく、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーなどのアレルギー疾患が発症します。花粉症は植物の花粉が目や鼻の粘膜に接触することによりそれを排除しようとして過剰な反応を起こし、目のかゆみや充血、鼻水、鼻づまり、くしゃみなどの症状が起こります。過剰な反応が容易に起こるような敏感な状態になることを"感作"といいますが、感作されるかどうかは体質や環境によると言われています。
まずは花粉を避けることです。外出をしない、というわけにはいきませんから、外出時は眼鏡やマスクなどで目や鼻を防御し、帰宅後は着替えて顔を洗う、シャワーを浴びるなどして衣服や顔・身体についた花粉を落としましょう。洗濯物はなるべく外に干さず、どうしても干す場合には風の強い日や飛散量の多い日・時間帯は避けましょう。窓やドアの開け閉めにも気をつけ、花粉を室内に入れない工夫が必要です。
鼻の症状が強ければ耳鼻咽喉科、目の症状が強ければ眼科ですが、かかりつけの内科でまず相談する、という方法もあります。内科でもアレルギー科であればより専門的な診療が受けられます。子どもの場合にはまず小児科を受診するのがいいでしょう。
花粉の飛散量は年によって変動しますが、毎年必ず飛散しますので、何年も暴露を繰り返すことにより、感作が進むと考えられます。感作されるかどうかは体質によりますが、一度感作されると、症状が緩和されることはあっても完治するのはなかなか難しいと考えられています。対症療法として、点眼薬や点鼻薬などの局所療法、目のかゆみや鼻水などを鎮める抗ヒスタミン薬や鼻づまりをよくするロイコトリエン受容体拮抗薬、漢方薬などの内服による治療、症状がひどい場合には鼻の粘膜をレーザー焼灼する手術療法がありますが、花粉症に対する唯一の根本治療として期待されているのが、免疫療法です。
アレルギー症状の緩和、治療薬の減量などの効果が期待できる免疫療法は、ごく少量のアレルゲン(花粉やダニなど)の投与を繰り返し行い、その物質に過敏に反応しないよう体を慣らすことで、体質改善を促します。スギ花粉症の場合、花粉シーズンを避けた6月~12月の間であれば治療を始められます。他の治療薬との併用も可能です。免疫療法には、皮下免疫療法と舌下免疫療法があります。治療効果はスギ花粉の場合、70~80%前後で、免疫療法により1~2割の人が薬を必要しなくなったという報告があります。ただし、即効性はなく、治療期間としては3~5年を推奨されており、3年以上続けた場合、治療効果は長く持続することが分かっています。花粉症の症状が再び悪化した場合も再度免疫療法を行えば早くに改善されます。なお、免疫療法の実施により、ぜんそくや他のアレルギーの発生予防も可能です。
花粉症を発症後、果物や野菜を食べると唇や口の中やのどにかゆみを感じたり、腫れ上がったりする「口腔アレルギー症候群」を合併することもあります。これは、花粉のアレルゲンに似た物質を持つ果物や野菜が反応してしまうためです。症状が出たら摂取を控え、病院で相談してください。